家族信託と任意後見。その落とし穴と併用効果

現在、相続の大ブームです。背景には人生100年時代到来や、団塊の世代全員がもうすぐ後期高齢者(75歳以上)に突入すること。それに加えて近年多くの相続関連法改正があったことが原因です。そんな中、最近よく見かけるのが相続対策としての<家族信託(正式には民事信託)>と<任意後見>です。今回はこの2つの概要と、見落としがちな落とし穴、2つを併用した場合の効果についてお話しさせて頂きます。

概要と違い

家族信託:自分の財産管理を他人に任せるために、その他人と信託契約を結びます。自分を委託者・任される他人を受託者・財産管理により利益を受ける人を受益者といいます。契約の効力開始時期は任意です。すぐにでも可能ですし、自分の意思能力が低下してから(認知症)でも良いのです。

委託者と受益者は同じである必要はありません。また、信託契約書は法的には公正証書による作成を求めていませんが、金融機関で信託口口座を開設する際には通常、公正証書を求められます。実務的には信託契約書は公正証書で作成することを要します。

  • 任意後見:自分の財産管理を他人に任せるために、その他人と任意後見契約を結びます。自分を被後見人、任される他人を任意後見人といいます。契約の効力開始時期は、自分の意思能力が低下した際(認知症)、家庭裁判所により後見開始決定を受け、且つ後見監督人が選任されたときからです。任意後見契約書は公正証書により作成する必要があります。
  • 注意点:両契約共、契約の際に契約出来るだけの意思能力が求められます。つまり認知症になってしまうと、治らない限りこれらの対策は出来なくなります。主な違い:上記の通り契約効力開始時期が異なりますが、契約効力終了の時期も異なります。任意後見契約は死亡により終了します。しかし家族信託契約は死亡後の財産管理も可能です。つまり、二次相続・三次相続の対策まで出来てしまいます。更に契約で定められる内容も異なり、家族信託の方が任意後見よりも広い範囲で財産管理を委任することが可能です。

落とし穴

こうしてみると、家族信託契約の方が優れていて、任意後見契約なんか不要だ!と思ってしまいますが、そうではありません。既述のとおり家族信託の方が任意後見よりも委任できる財産管理の範囲が広いと申し上げましたが、この2つの契約の権限範囲は完全には重なりません。ここが落とし穴なのです。また、掛かる費用も異なります。

  • 家族信託で出来ない事:身上監護ができません。例えば、入院・手術・介護施設への入所手続きに関することです。委託者の年金受給を受託者が信託口口座で受け取り、管理することも出来ません。この場合、本人(委託者)が受給年金を自分の口座から引き出すしかないのですが、本人が認知症になると口座が凍結されてしまいますのでお手上げとなってしまいます。これは非常に影響が大きい落とし穴ではないでしょうか。
  • 任意後見で出来ない事:財産運用ができません。例えば、相続税対策の為の不動産購入・金融機関からの借入れ・管理財産を増やすための投資行為などがこれにあたります。更にいうと、この契約の効力開始は本人の意思能力が低下(認知症)した後ですので、本人の意思による相続対策というものが原則一切出来ない状態になります。

併用効果

この様に双方に出来ないことがありますが、完全一致しません。片方に出来なくても。もう一方では出来るのです。そして、家族信託と任意後見契約は併用出来ます。これが併用効果です。

  • 本人が老人ホームに入居したが、管理財産では毎月の費用が心配だ。安全性の高い投資で少しでも財産を増やしたい→→任意後見× 家族信託〇
  • 本人の財産は自宅と現金だが、現金が少なく年金が頼りだ。それでも本人が介護施設に入居したら費用が足りない。
    その際は自宅を賃貸に出して賃料収入で賄いたい→任意後見一部〇(年金管理)家族信託一部〇(自宅賃貸)
  • 本人の容態が悪く入院させたい。場合によっては手術も必要かもしれない。退院した後は介護施設への入所も考えなくては→→任意後見〇 家族信託×

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